研究の意義と目的
肺癌に対する治療は手術、化学療法、放射線療法、免疫チェックポイント阻害剤などがあり、各病期や患者さんの状態、ご希望により治療法は異なります。最終的に、日本肺癌学会のガイドライン等を参考に、患者さんと相談の上、治療方針が決まります。一般的に、臨床病期(ステージ)III期までの患者さんには手術が行われることが多いのですが、その手術にはいくつかの方法があります。
まず、旧来から行われてきた開胸術、1990年代から行われてきた胸腔鏡下手術、更に最近急速に普及してきたロボット支援下手術などがあります。当科でも患者さんに優しい低侵襲な手術を行うべく、早くから胸腔鏡下手術に取り組み、2021年からはロボット支援下手術に取り組んできました。この胸腔鏡下手術やロボット支援下手術は現在でも発展、改良されています。例えば胸腔鏡下手術は、以前は胸に複数のポート(道具を入れる1cmほどの穴)を入れて手術を行っていましたが、最近は単孔式と言って、4cmほどの傷の1か所で胸腔鏡下肺葉切除術を行うようになりました。またロボット支援下手術は、人間が道具を操作する際の手振れを無くし、大変精緻な作業が可能です。これらの手術の方法には一長一短があり、その中の一つが術後の痛みに関するものです。
これまでに報告された胸腔鏡下手術とロボット支援下手術の手術後の痛みに関する研究では、術後早期(1週間程度)の疼痛はロボット支援下手術の方が少なく、それ以降は胸腔鏡下手術の方が、痛みが少ないとするものなどがあります。特にロボット支援下手術の術後の胸部の疼痛は、胸部におけるロボット手術の特性で、狭い肋間(肋骨と肋骨の間)にポートを挿入し、手術道具を持つアームが抵抗を感知せずに動くことで胸壁(胸部の肋骨と筋肉、皮膚などからなる壁)に過重な負荷がかかることが原因かもしれません。そのため、ロボット支援下手術でもポートの位置をより広い肋間や、より負荷がかかりにくい位置に変えることで痛みが減る可能性があります。当科では単孔式胸腔鏡下手術と、ロボット支援下手術の何れにおいても、患者さんの手術後の痛みが少しでも軽減できるよう工夫致しております。そのため、これまでの単孔式胸腔鏡下手術とロボット支援下手術の術後疼痛に関する過去の診療記録・データを収集し、解析し、術後疼痛の軽減につなげることが本研究の目的です。
研究の方法
対象となる方は、2021年 6 月から 2022 年 3 月の間にいまきいれ総合病院・呼吸器外科でロボット支援下手術を行われた肺がん患者さんです。
対象となる診療記録は、カルテ記載内容(性別,年齢,生年月日,診断日時、身長、体重、治療履歴、ECOG PS(Performance status、投与薬剤、最終受診日、転帰、手術記録(日時,術式,リンパ節郭清度,合併切除臓器)、麻酔記録(手術時間、出血量、輸液量、輸血量、使用薬剤)、術後合併症記録、画像検査(単純 X 線、CT、MRI、PET、血管造影、核医学検査)、内視鏡検査、病理組織検査(組織型,最大腫瘍径,リンパ節転移の有無,洗浄細胞診,近位断端,遠位断端,腫瘍の遺残、血管浸潤、リンパ管浸潤、分化度)と、過去に行われた日常診療に基づくものです。
この研究は過去の診療記録を用いて行われますので、該当する方の現在、未来の診療内容には全く影響を与えませんし、不利益を受けることもありません。解析にあたっては、個人情報は匿名化させていただき、その保護には十分に配慮いたします。学会や論文などによる結果発表に際しては、個人の特定が可能な情報はすべて削減されます。
問い合わせ先
いまきいれ総合病院 呼吸器外科
担当者名:今給黎 尚幸
電話番号: 099-203-9102
対応可能時間:9:00~17:00