口唇口蓋裂治療

はじめに

口唇口蓋裂は、単一診療科のみでその治療を行うことが困難な疾患です。したがって、さまざまな診療科が連携、協力しできるだけ質の高い治療を行うことが重要となります。当院では、平成23年4月1日より口唇口蓋裂診療班が発足し、集学的に口唇口蓋裂の治療が行えるようになりました。当院では形成外科をはじめ、新生児内科、産科、耳鼻咽喉科、小児科、麻酔科、歯科口腔外科、矯正歯科、言語聴覚療法士、看護部、栄養課、医療相談室により診療班を形成しています。

 

口唇口蓋裂とは
a. 疫学

口唇口蓋裂は先天異常のなかで発生頻度の高い外表異常の1つです。発生頻度は日本では500〜600出生に1人で、他人種に比べ高いと言われています。また、複数の合併症の1つとして発症することがあります。

 

b. 分類

口唇口蓋裂を形態で分類すると、口唇裂単独、口蓋裂単独、口唇口蓋裂となり、それぞれ両側性、片側性、裂の形状(不全、完全)などで分けられます。口唇裂単独、口唇口蓋裂は成因が共通していますが、口蓋裂単独はこれらとは別に扱われます。口唇裂単独、口唇口蓋裂より口蓋裂単独は、遺伝的異常がある場合が多く、他臓器に形態異常を伴うことがあります。


当院における口唇口蓋裂治療のアプローチ

口唇口蓋裂の治療において、形態的な治療以外に言語、歯列、発達などに対する総合的な診察、治療が要求されます。また、複数の合併症の1つとして口唇口蓋裂を発症している場合(いわゆる症候群)は、合併症の治療が必要となります。

当院では口唇口蓋裂外来(毎週水曜午後)を開設しているため、他院からの紹介に対して、まず診察を行い、同日に連携診療科に依頼をし、集学的に治療をすすめます。たとえば、耳鼻科における滲出性中耳炎の治療、小児科における発達の評価や合併症に対する治療、矯正歯科による術前顎矯正(必要な症例)および歯列矯正治療、歯科による齲歯治療、言語聴覚療法士による言語療法、助産師による哺乳指導、ソーシャルワーカーによる医療相談などが挙げられます。

ハイリスク新生児に対しては、地域周産期母子医療センターを併設しているため新生児内科医、産科医の専門的な管理が可能です。口唇口蓋裂の患者さんが入院した場合、形成外科が併診しご家族に対し疾患、治療法について説明を行っています。退院後はフォローアップ外来や、小児科外来での定期的な診察を行います。

形成外科的な手術治療は基本的に生後3ヵ月で口唇鼻形成術、1歳で口蓋形成術、6〜10歳で2次顎裂部骨移植(必要な症例)を行っています。細部修正に関しては、症例にあわせて必要があれば行います。


また、当院では症例により最新治療である術前矯正治療(nasoalveolar molding以下NAM)を初回口唇鼻形成術前に行っています。NAM治療は、術前の鼻軟骨形態改善および初回手術時に顎裂部に歯肉骨膜形成(gingivoperiosteoplasty以下GPP)を施行する目的があります。GPPを行うことで、顎裂部の骨架橋が作られ、学童期の2次的顎裂部骨移植が不要となる可能性があります。

 

片側唇顎口蓋裂用NAM口蓋床
両側唇顎口蓋裂用NAM口蓋床
片側唇顎口蓋裂用NAM口蓋床
両側唇顎口蓋裂用NAM口蓋床

片側唇顎口蓋裂用NAM装着時
 
片側唇顎口蓋裂用NAM装着時
 

 

 

手術方法
初回口唇鼻形成術

生後約3ヵ月、体重6kgを基準に初回手術を行います。生命に関わる合併症がある場合は、その治療が優先となります。

当院の術式は、片側の場合rotation-advancement+小三角弁法、両側の場合はMulliken変法を選択し、顎裂を有する症例では可能であればGPPを行っております。

 

症例1 左側不全唇裂

生後3ヵ月で口唇鼻形成術を施行した。1歳時、口唇鼻形態は左右対称であり良好である。


(a)術前デザイン 正面
(b)術前デザイン 仰角

(a)術前デザイン 正面

 

(b)術前デザイン 仰角

 

(c)術直後 正面 
(d)術直後 仰角

(c)術直後 正面


(d)術直後 仰角


(e)1歳3ヵ月時 正面 
(f)1歳3ヵ月時 仰角
(e)1歳3ヵ月時 正面
(f)1歳3ヵ月時 仰角

症例2 右側完全唇顎裂

生後3ヵ月時に口唇鼻形成術およびGPPを施行した。術後6ヵ月では、口唇、鼻翼の形態は左右対称であるが、鼻孔の左右差を認める。


(a)術前デザイン 正面
(b)術前デザイン 仰角

(a)術前デザイン 正面

 

(b)術前デザイン 仰角

 

(c)術直後 正面 
(d)術直後 仰角

(c)術直後 正面


(d)術直後 仰角


(e)術後2年 正面
(f)術後2年 仰角

(e)術後2年 正面


(f)術後2年 仰角


(g)術後2年 顎裂部

(g)術後2年 顎裂部


症例3 左側完全唇顎口蓋裂

術前NAM治療を行い、生後4ヵ月時に初回口唇鼻形成術およびGPPを施行した。6歳時、口唇鼻形態は左右対称であり、鼻柱の短縮もなく良好である。咬合は、前歯、臼歯ともに良好で、欠損歯は認めるもののCT上骨架橋得られており2次的顎裂部骨移植は不要である。


(a)初診時 正面
(b)初診時 仰角

(a)初診時 正面

 

(b)初診時 仰角

 

(c)6歳時 正面
(d)6歳時 仰角

(c)6歳時 正面


(d)6歳時 仰角


(e)咬合
(f)咬合

(e)咬合

反対咬合なく良好である 

(f)咬合

骨架橋が得られ

2次的顎裂部骨移植は不要である


口蓋形成術
生後1歳〜1歳半で手術を行います。口唇裂同様、優先する治療があればその限りではありません。
大きく分けて口蓋裂の手術にはFurlow法とPush back法があります。当院では顎発育に対して影響が少ないと考えられるFurlow法を主な手術法としています。Furlow法は顎裂幅が広い症例など使用が困難と言われてきましたが初回唇裂手術時に口蓋前方を閉鎖や、口蓋床の使用で大きな顎裂幅でも閉鎖が可能となり、現在ではほとんどの症例に適応しています。

症例 硬軟口蓋裂

1歳時にFurlow法による口蓋形成術を施行した。


(a)術前デザイン
(b)術中
(c)術直後

(a)術前デザイン

 

(b)術中

(c)術直後

 


2次的顎裂部骨移植術
良好な咬合を得るために歯列(歯並び)を整える必要があります。顎裂がある場合、骨欠損があるため歯を移動することができません。したがって、骨盤より骨を採取(1㎝程度の切開)して、顎裂部に骨移植します。GPPにより骨架橋が得られた症例では、骨移植を行わなくても良い場合があります。基本的には犬歯萌出前に矯正歯科医と相談し骨移植が必要かどうかを評価して決めています。

修正術
鼻の変形、口唇の変形がある場合は、修正術を行います。手術時期に関しては、とくに決まっていないため、必要に応じて必要な修正を適宜行っております。

症例 口唇および外鼻変形
(a)術前 正面
(b)術前 仰角

(a)術前 正面

 

(b)術前 仰角

 

(c)術後 正面

(c)術後 正面

(d)術後 仰角

(d)術後 仰角


口唇口蓋裂は日本では年間2000人以上出生するといわれています。全国的に口唇口蓋裂治療を行う施設は多数存在しますが、すべての施設において集学的な治療が行われているわけではありません。とくに鹿児島県をはじめ南九州には、集学的に治療を行うことができる施設がほぼないため、十分な治療が行えていないのが現状です。当院は、南九州の口唇口蓋裂治療の発展に貢献できると考えております。

〒892-8502 鹿児島市下竜尾町4番16号



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